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東京高等裁判所 昭和25年(う)1986号 判決

被告人

学徒援護会代表者理事 深井俊彦

主文

本件控訴はこれを棄却する。

理由

前略。

論旨第一、二点について。

本件起訴状に、被告人である財団法人学徒援護会の代表者の氏名及び住居の記載がないことは洵に所論の通りである。けれども右が起訴状の絶対的記載要件でないことも亦、刑事訴訟規則第百六十四条第二項其の他に徴し明かであると謂わねばならないから、右の記載がないことを以て直ちに、本件公訴提起手続が無効であるとは断じ得ない。従つて右の点に於て原審が本件公訴を棄却しなかつたのは洵に相当であつて論旨は理由がない。

又本件記録を精査すると、本件起訴状謄本の送達が被告財団法人の代表者に宛てて為されずに、「財団法人学徒援護会」を受送達者として為されたことを認め得られるが、右謄本は、昭和二十四年九月二十七日被告財団法人の事務所で事務員大場伊三郎が之を受領し、其の直後右法人の代表者理事深井俊彦に於て同年十月一日附を以て、「本件につき公文貞行を弁護人に選任する」旨の届書、及び翌二日附を以て公判期日御変更上申書と題する書面を自ら各作成して之を原審に提出し、次で同年十一月一日附書面を以て同会主事西原留太郎を被告人の代理人として公判廷に出頭させる旨を届出て同月五日に開かれた原審第二回公判廷に、前記弁護人と共に同主事を出頭させ、該期日に審理が開かれて、同主事等が種々裁判所に対し陳述して居ることを認め得るのであつて、要するに右は、本件起訴状謄本の送達を受くべき前記代表者が其の送達のあつたことを認め、其の有効であることを前提とする訴訟上の行為を為し防禦権を始め、被告人に認められた各種の権利を前記第二回公判当時既に行使して居たと解せざるを得ない。そして元来訴訟手続上送達並に之に関する規定は、書類の交付を確実ならしめ、送達を受くべき者の利益を保護することを主眼とするものであつて、仮に其の手続上に瑕疵があつたとしても其の送達を受くべき者が送達のあつたことを認め、其の有効であることを前提とする訴訟上の行為を為した以上、其の瑕疵は補正せられるものと解すべきであるから前記起訴状謄本は、昭和二十四年十月一日当時既に被告財団法人の代表者に送達されたものであつて、其の後右代表者が前記訴訟上の行為を為し、権利を行使した以上、現在に至つて其の送達を無効と為し得べきものではない。従つて、右謄本が公訴提起二箇月以上に亘つて被告代表者に送達されなかつたから本件公訴提起は其の効力を失い、原審は本件公訴を棄却すべきであつたとの点に関する論旨は理由がない。

更に原審第六回公判に於て、検察官が被告財団法人の代表者の氏名、住居を追完し、起訴状を訂正する旨を述べ、同公判廷に出頭した代表者深井俊彦並に、主任弁護人が何れも「右に異議なく意見はない」旨を述べたこと、被告人及び其の代理人等が原審に於て、被告財団法人の代表者に対して為さるべき書類の送達につき異議を申立てたと認むべき事跡がないこと、其の他前記諸般の事情からすると、原審に於ける各書類の送達につき被告人等は原審に於て其の責問権を抛棄し、送達手続に関する一切の欠缺は之により補正されて適法な送達があつたと同一の効力を生ずるに至つたものと解されるから、原審の訴訟手続に判決に影響を及ぼすことの明かな法令の違反があるとの点に関する論旨も之を採用し得ない。

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